Asana導入後1年間で3200時間におよぶ会議時間の削減を実現。残業時間も減少、創造的な業務への時間活用が可能になった
メンバーにプロジェクト管理の能力が身につき、PMOの基礎的な素養がチームに浸透した。単なるタスク管理を超え、周囲の人々に働きかけてプロジェクトを推進できるようになった
従来の上司主導のタスク管理から、メンバーが自主的にタスクをこなせる能動的なチームに変容した。社内の肩書や上下関係による抵抗感が取り払われ、フラットに仕事を割り振れるようになった
フジテックはエレベーター、エスカレーター、動く歩道の開発から設計、製造、販売、保守を行う専業メーカーで、都市の発展に伴う「タテ」「ヨコ」「ナナメ」の移動手段の需要に応えています。2023年に創業75周年を迎えた同社は、原田政佳社長のもと新しい経営チームを構築しました。そして、「変えるべきこと、変えないこと」という不易流行の考え方に基づいて、過去の経験に固執せず、本質的な強みを生かしながら柔軟に進化し続けることを目指しています。
情報システム部から拡大したデジタルイノベーション本部では、テクノロジー研究部がテクノロジーの研究開発を、システム管理部が社内システム基盤の開発・管理を、プロセス管理部が時代の変化に即した社内の業務改善を進めています。本部全体でワークマネジメントツール「Asana」を導入して以降、会議時間の削減やタスク管理の効率化が実現し、従業員は創造的な業務に集中できるようになりました。また、Asanaによるプロジェクト進捗の可視化により、自律的なタスク管理とプロジェクト推進が可能な組織へと変容を遂げました。Asana導入のキーパーソン2名に、導入前の課題と導入後の成果について話を聞きました。
都市への人の集中や建物の高層化に伴い、エレベーターやエスカレーター、動く歩道といった移動手段には速さや安全性だけでなく、快適さも求められています。フジテックは専業メーカーとして、これらの都市機能を担う商品やサービスを提供し、国内外の需要に応えています。また、移動手段としての機能だけでなく、建築のデザインアクセントや、移動中の景色や視点の変化を楽しむ手段として、さらに、高齢者や車椅子の利用者など、様々な人々の生活をサポートするために、バリアフリーへの配慮も重視しています。
このようなビジョンを実現していく基盤として、フジテックのデジタルイノベーション本部 プロセス管理部では、働く環境の改善や効率化のため、SaaSなどのサービス提供、RPAをはじめとしたユーザー主導のアプリ開発、BIツールによるデータ活用などのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。そうした業務改革のため、さまざまなプロジェクトを横断して「デリバリーマネジメント」の礎を築いたのは、フジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二 氏です。これまでは、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)に基づき、Googleスライドで目標、タスク、リソース、納期を含むプロジェクト管理シートを作成し、プロジェクトごとに記入された内容から、進捗状況や遅延リスクなどを管理していました。
友岡氏は「個々のプロジェクト管理はできても、100ほどあるプロジェクトを全体的に俯瞰し、リソースを各プロジェクトに迅速かつ適切に割り当てることは困難でした。週に1度の『デリバリー会議』で調整していましたが、情報システム部時代の5年間は管理者が私一人だったため、属人化の懸念もあり、このままでは長期的な持続が難しいのではといった懸念もありました」と振り返ります。
そこで、デジタルイノベーション本部が担う業務を要素ごとにタスク分解し、メンバーが個々に管理できるような仕組みを作る必要性を感じました。個人によるプロジェクト管理ができれば、メンバーがリスク管理の基本を学べる成長機会にもつながります。しかしその一方で、各人の基準にばらつきがあれば、個人の判断だけでは正しいリスク管理が難しく、管理者の視点も必要になります。
それまでのプロジェクトの管理は、先に挙げたプロジェクト管理シートに加え、スプレッドシートの資料、議事録のドキュメントなど、異なるプラットフォームのファイル上で行われていました。そのような環境では、担当メンバーやプロジェクトマネージャー、上位管理者といった立場ごとに、異なる課題が存在していました。
例えば、複数のプロジェクトを担当している個人レベルでは、抜け漏れや遅れの問題が発生しやすく、自身のタスク量も分かりづらい状況でした。プロジェクトマネージャーレベルでは、複数の部門をまたぐプロジェクトの管理を行う際に、メンバー個々のタスク進捗を俯瞰して見たり、プロジェクト全体の状況を把握したりすることが困難でした。上位レベルの管理者の場合、特にリスクに焦点を当てる必要がありますが、情報の粒度が異なる膨大な数のプロジェクト管理シートでは見落としのリスクもありました。
こうした状況を鑑み、友岡氏は「自主自律の重要性を強く感じます。何をするかを自分で考えて決断し、周囲を説得しながら自らの手で実現し、最終的な成果につなげられることが理想です。マネジメントは過度な介入をせず、チーム内だけでも解決できるようにサポートしながら結果を出す。そのためには、マネジメントと作業を行うチームメンバー間の信頼関係を損うことなく、透過性のあるコミュニケーションを取れることが重要なのです」と語りました。
プロジェクト管理の効率化は本来の付加価値の高い仕事に集中できる環境を作ることにもつながります。多くのメンバーは多くの会議でスケジュールが埋まってしまい、創作的な活動に十分な時間が取れていませんでした。また、管理者による進捗確認に時間がかかるだけでなく、作業を中断させられることによる集中力の低下など非効率な事態にも陥っていました。こうした課題を解決するために、ツールの一元化と、コミュニケーションの効率化は急務でした。
デジタルイノベーション本部 プロセス管理部長の山本健治 氏は「友岡が『報・連・相』と『同期/非同期』の関係を示し、会議のような同期的な交流はマネジメントへのエスカレーションといった相談や問題解決策の議論に充て、その他の日常的な報告は非同期で行うべきという考えをベースに、同期/非同期の適切な分離を実現するツールの導入をすすめました」と説明しました。
5種類以上のプロジェクト管理ツールを検討した結果、Asanaが選ばれました。選定の理由について友岡氏は「チャットツールを使えば非同期の報告は可能ですが、それだけではプロジェクトやタスクに紐づいた情報整理が煩雑になります。Asanaの利点は、トピックや目的を定めたうえで、非定型の会話が行える構造にあります。細分化されたタスクにひもづいた詳細な会話も展開できる点が良いと感じました。また、普段使っているSlackやGoogle Workspaceといったツールとの連携も簡単にできる点も非常に重要な決定要因です」と語りました。
Asana導入が決まると、デジタルイノベーション本部のすべての従業員が参加し、すべてのプロジェクト管理を90日間でAsanaへ移行する取り組みを開始しました。
最初の1ヶ月目でAsanaのデリバリーマネジメント用ポートフォリオに全プロジェクトを登録しました。「プロジェクト管理に必要な項目をあらかじめカスタムフィールドやマイルストーンで登録したプロジェクトテンプレートを用意しました。誰もが迷うことなく報告に必要な事項を理解できるようになり、100あるプロジェクト管理の移行もスムーズになりました」(山本氏)
2ヶ月目では週末に今週のステータスを必ずAsanaで更新し、翌週初めのデリバリー会議で共有するようにしました。ポートフォリオやレポートから全プロジェクトの進捗が一目で把握できるため、今週の成果や来週の活動予定の報告、問題とリスクに対する対策案とマネジメントへのエスカレーションを中心に議論するようになりました。
そして3ヶ月目にはAsanaによるプロジェクトマネジメントが本格的に始まりました。その間に会議時間や開催ルールも見直しました。例えば、1時間の会議は40分に短縮、会議の時間も9時から10時、13時から15時の間に設定して、金曜日はできる限り会議を入れないなど、業務に集中できる時間を確保するように改善したのです。
個人レベルでは、Asanaのマイタスク機能によって、複数のプロジェクトに関わるすべてのタスクを一覧で見ることができ、取り組むべき業務や優先度が明確になりました。マネジメントレベルではレポート機能によって、期限超過やプロジェクトの進捗状況、業務評価を一目で把握できるようになりました。頻度が少なく見落としがちだった契約更新や年次イベントについてもAsanaで管理して抜け・漏れを防いでいます。
さらに、デリバリー会議を含むミーティングの議事録や議題もAsanaで扱うようになりました。このことでチームリーダーもAsanaを活用し、自ら率先して業務改善を進めるようになるなど仕事へ取り組む姿勢にも良い変化が見られています。
このほか、新人やキャリア採用者の受け入れにもAsanaを活用。オンボーディングプロセスが分かるテンプレートを用意し、教育、名刺の配布など、入社後に発生するさまざまなイベントをスムーズに行なっています。
山本氏は「Asanaで立てたタスクはSlack上でも活用でき、『いいね』ボタンを押したり、コメントを付けたりすることが可能です。また、Slackでのやり取りで生じたタスクをすぐにAsanaに立てることができるなど他のツールとも連携がしやすく、見逃しや依頼漏れが減りました」と、ツール連携の利便性を語りました。
Asanaの導入前と導入後の1年を比較すると、会議時間に変化が顕著に現れました。Asanaユーザーについて調査したところ、本部全体で年間3,200時間もの時間削減ができていることがわかりました。山本氏は「会議や残業時間が削減され、クリエイティブな作業への時間創出に寄与しています。非常に価値のある変化だと感じています」と評価しています。
Asanaの使用によって、プロジェクト管理の質も向上し、チーム全体の能力向上にも影響しているといいます。これについて友岡氏は、「Asanaを使用することで、自律してプロジェクトを一通り管理する実体験ができ、それによりPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)的な素養が育つというのが最大の効果です」と語りました。
プロジェクトマネージャー(PM)は、単にタスクを管理するだけでなく、周囲の人々を巻き込み、自分だけでは動かせない大きなこともメンバーに協力を仰ぎながらプロジェクトを進めていくことが求められます。日々Asanaを活用していくことで、プロジェクトの進め方が自然と身につき、優れたプロジェクトマネジメント能力が育まれるのです。
フジテックの社員は3000人強で、Asanaの利用者はそのうちの190人ほどです。山本氏は、今後も会社全体の業務改革に貢献していきたいとし、「私たちの部門が実現したように、本来業務にもっと集中できる環境を構築したいと思っている部門はあります。Asanaのように強力なツールをもっと社内に提供していきたいです」と豊富を語りました。
友岡氏は最後に「新経営陣が打ち出している『不易流行』という考えのもと、我々の本部も成果を出していきたいです。これまでは社内の効率化を中心に取り組んできましたが、お客様にとっての価値をより直接的に提供する活動にシフトしていくことを強く意識しています。フジテックはお客様志向へと大きく変わってきており、その変化をお客様にも感じていただけるようになってきました。これからも、さまざまなプロジェクトを仕掛け、このお客様のためのさらなる価値創造を目指していきます」とコメントしました。
フジテックでは、本質的な強みを活かしながらも過去の経験や手法に固執せず、柔軟にイノベーションを進めることに注力しています。現場を重視し、グローバルへの貢献も追求する同社では、Asanaなどのデジタルツールを積極的に活用することで、従業員が自律的に働ける環境を整え、顧客へのより良い価値提供と企業の持続的な成長を目指しています。
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