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緊急事態のときでも、事業の継続と迅速な復旧が可能となるために策定する BCP (事業継続計画)。この記事では、BCP とは何なのか、その意味や目的などの基本知識に加え、策定の流れとポイントをわかりやすく解説します。
更新: この記事は、BCP の背景に関する記述を含めて 2022年 12月に改訂されました。
起こりうるリスクを事前に想定して、その影響をできるだけ抑えるための対策を考えておく「リスクヘッジ」に関しては『リスクヘッジとは?意味、進め方、スキル向上のポイントを解説』をご覧ください。
事業継続計画のテンプレートを試すBCP とは、自然災害やシステム障害などの緊急事態が発生した際、速やかに事業を復旧できるよう、それぞれの企業が自発的に策定する文書です。日本語では「事業継続計画」とも呼ばれます。
BCP は Business Continuity Plan (事業継続計画) の頭文字を取った略語です。
BCP が推進されるようになったのには、どのような背景があるのでしょうか?
日本は地震をはじめ、火山、豪雨、台風などによる大規模な自然災害が多い国です。また昨今では新型コロナウイルス感染症の流行や戦争など、自然災害以外でもさまざまな不測の事態が発生しています。企業はそのような状況でリスクにさらされても、事業を守っていかなければなりません。そのために作成されるのが BCP と呼ばれる文書なのです。
とりわけ東日本大震災を境に BCP の重要性が問われるようになり、内閣府がガイドラインを公表したり、中小企業庁が運用指針を公開しています。
BCP とよく一緒に聞かれる用語に BCM があります。BCM とは Business continuity management の略語で、「事業継続マネジメント」のことを指します。BCP が緊急時に備えた事業継続に関する「文書」であるのに対し、BCM はこれの策定、導入、運用、改善といったマネジメントプロセス全般のことを言います。簡単に言ってしまえば、BCM の成果物が BCP です。
不測の事態が起こり、通常通りの事業の運営ができなくなった際、どのような対応をとるのか。場合によっては、事業の一部から撤退する必要性が出てくるかもしれません。そういったケースについて事前に検討することは、すなわち経営戦略そのものにつながると言っても過言ではありません。
記事: 戦略管理は初めてですか? ここから始めましょう。コンティンジェンシープラン (Contingency plan) は BCP とよく混同しやすいビジネス用語です。両者の概念には似たところがありますが、コンティンジェンシープランの目的が緊急時における「各業務の対応の明確化」であるのに対し、BCP は緊急時における「事業の継続」に重きを置いているという点で異なります。前者は短期的、後者は中長期的な視点で練られるプランであるとも言えるでしょう。
BCP (事業継続計画) を策定する目的は、緊急時の被害を最小限に抑え、企業の重要業務を中断せずに、事業を継続することにあります。
ビジネスに潜在的リスクやインパクトはつきものです。もし不測の事態が発生したときに、企業がどのように対応するのか?緊急時にも慌てず、事業活動がストップしないためにも、事前に対策プランを練っておくことが大切なのです。
BCP 対策をしっかりと講じることで、次のようなメリットが企業にもたらされます。
リスク対策を取ることで、緊急時にも事業を停止することなく、製品やサービスを提供することは、企業価値を上げることにつながる。
顧客やステークホルダー、取引先からの信頼が高くなる。
市場での競争力向上につながる。
事業の付加価値を把握できる「バリューチェーン」という考え方についての記事『バリューチェーンとは?分析して競合他社との差別化を図る』もご覧ください。
緊急時や災害時でも事業を継続し、通常どおりに早期復旧できるよう練られる BCP ですが、具体的にはどのように策定していけばいいのでしょうか。ステップに沿って、解説します。
1. BCP の基本方針を設定する
2. 重要業務を見極める
3. リスクを把握、分析し、優先順位を付ける
4. 計画書に落とし込んで具体策を決める
5. 社内で共有する
BCP を策定するには、まずその基本方針を定めます。たとえば「顧客への供給責任を果たす」や「従業員の人命を守る」などが基本方針の例として考えられます。BCP の基本方針を決定するときに重要なのが、それぞれの企業がその経営方針や事業戦略、ビジネス目標を今一度チェックすることです。企業の原点に戻り、基本方針を決定しましょう。
BCP 策定には専用のチームを設けることが一般的です。その場合は、複数の部署からメンバーを集めることが多いので、策定時にはコミュニケーションを円滑に進められる環境が望ましいでしょう。社内情報が可視化でき、同時にチームやタイムゾーンをまたいだコミュニケーションを可能にするツールがあると便利です。
平常時の業務をすべて実施することが不可能になった場合、企業はどの業務を優先して継続するか、または復旧させるかを的確に判断しなければなりません。そのためには、BCP 策定の時点でビジネスの中核となる事業または業務を選んでおくことが必要となります。中核となる事業とは、市場で最も競争力がある事業や最も売り上げの高い事業などのことを指します。
重要な業務を見極めるには、事業影響度分析 (BIA) を活用しましょう。優先的に継続もしくは復旧を必要とする業務を選んだら、目標復旧時間や、そのために必要となる経営資源も検討し設定しておきます。じっくりと検討し、緊急時に想定されるボトルネックの特定も行いましょう。
BCP 対策とは緊急事態に備えて策定する計画書であるわけですが、そもそも「緊急事態」が何なのか具体化していなければ、それ相応の対策も練ることができません。そこでこのステップでは、ビジネスの通常運営を困難にする事象 (インシデント) を明確化していきます。
インシデントには地震や火災などの災害から、事件、事故、戦争、システム障害などさまざまなタイプのものが考えられます。それをすべて挙げ、そのインシデントによるリスクを分析します。しかし、すべてのインシデントに対して BCP を対策として取るわけではなく、その中から最もリスクの高いものをピックアップしていきます。事業の優先順位を付けたのと同様、リスクにも優先順位をつけ、緊急時には何から取り掛からなければならないのかを明確に示すことが重要です。このステップの時点で、もしリスク登録簿がすでに社内シェアされていれば、よりスムーズに BCP 策定が進むはずです。
記事: リスクマネジメントの基本と 6 つのステップを徹底解説ステップ 2 と 3 を踏まえ、その対策を具体的に計画書に落とし込んでいきます。具体案の検討は、対象となる中核事業にどれほどのリソースが関わっているのかなど、ステップ 2 で特定した内容を考慮しながら取り組みます。想定される被害をどのように最小化するか、どのように早期復旧させるかを考え、そして事業運営に不可欠な要素が利用できない場合の代替案を具体的に BCP に落とし込んでいきましょう。個々のインシデントではどのような対応策を講じるのか、それぞれの場合について担当者や責任者も決め、細かく詰めていきます。
このとき、実際に該当する中核事業や業務がどのように運営されているのかを、BCP 策定チームは正確に把握していなければなりません。そのためには、社内のひとつひとつのプロジェクトやタスクが見える化されていれば効率的です。部署やチームの壁を越えた「見える化」が可能になるワークマネジメントツールが有効でしょう。
電子書籍をダウンロード: ワークマネジメントとは?チームがワークマネジメントを必要とする理由最後のステップで、BCP は社内で必ず共有しましょう。企業の上層部だけではなく、従業員ひとりひとりが BCP を把握していることが重要です。予測不能の事態が起こったとき、アクションを起こさなければならないのは企業のトップメンバーだけではありません。非常時にもスムーズに行動に移せるよう、現場で働く社員全員に BCP の普及が必須となります。シェアするときは、他のファイルに埋もれてしまうことがないよう、全員がいつでもアクセスできる場所で行うことがおすすめです。
BCP を策定する流れについてまとめましたが、そのときに考慮すべきポイントをいくつか挙げていきます。BCP を作るときの参考にしてみてください。
「災害によって停電した場合のために、自社での発電が可能となる太陽光発電の設備を整える」「地震によりサプライチェーンに乱れが出たことを想定して、仕入れ先や取引先の依存度を明確にし、代替策を準備しておく」。インシデントの種類や業種タイプによっても、BCP 対策はそれぞれ少しずつ違ってくるかもしれません。しかし、BCP 対策について考えるときに何よりもまず優先されるべきポイントは、人命を守ることです。従業員の命と安全を第一に考えてから、その他の BCP 対策を策定するようにしましょう。従業員の安否確認を速やかに行えるようマニュアルを作成したり、安否システムを事前に構築したりすることも大切です。
BCP は緊急事態が発生した場合にどのような対策をもって事業継続または復旧を目指すのかを述べた文書ですが、ボリュームも多く非常時には不便である可能性もあります。すぐに対応するためには、マニュアルのような簡易版 BCP を用意しておくとよいでしょう。
BCP は定期的に見直しをし、改善していく必要があることを忘れないでおきましょう。BCM に含まれる工程として、実際に従業員に対して訓練や教育を行うことも重要です。
BCP をメンテナンスする場合、その内容が複雑であったり引継ぎがうまくされないと、後任者が四苦八苦する可能性もあります。そうならないように、どのような手順で BCP が策定されたのかを後からでも閲覧できるツールを社内で使用していると便利です。メールやチャットツールとも連携できるAsana は、その点で有効なワークマネジメントツールと言えます。
また、働き方改革が進む中、昨今はコロナ禍の影響もあり、オフィスワークではなくリモートワークをする人も多いのが現状です。そんな中で BCP の策定もしくは改善、見直しをスムーズに行うには、オンラインでもチーム内コミュニケーションをスムーズに管理できるツールを使用しましょう。BCP が改定された場合も、関係者全員が最新版を常に手元に置くことが可能です。
Asana でリモートワークを管理BCP (事業継続計画) とは何か、その目的と策定ステップを解説しました。策定時には紹介したポイントを考慮してみてください。BCP 対策とは、定期的かつ継続的な見直しと改善が必要です。不測の事態を前にしたとき、事業の継続を可能にし、また企業の信頼にもつながる文書ですので慎重に策定しましょう。
一方、具体性が求められる上、細かいところまで目を光らせなければならない BCP は、文書化すること自体が目的となってしまいがちです。BCP の目的とその意義を常に念頭に置き、実効性のある策定を心がけましょう。Asana では BCP のテンプレートを用意しているので、活用してみてください。
ビジネス戦略に関連して、昨今ますます注目が集まる DX や CSR などの活動、D2C に関する記事も Asana でご覧ください。